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海外に住む若者の視点(5) -終身雇用とCSR-

2012年01月15日

【終身雇用とCSR】

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(出所:産業能率大学


 2011年度の新入社員の74.5%が終身雇用を希望している。若い人達の多くが終身雇用を希望することに驚きつつ、今日は過去の筆者の議論を想起しつつ、終身雇用とCSRの関係を見ていきたい。


 終身雇用とは、賃金の後払いによって長期的雇用を確保するという雇用側のメリットと、安定した雇用が確保できるという非雇用側のメリットが期待できる雇用慣行である。年配者を重んじるという日本の文化にも適した制度でこれまで広く受け入れられてきた。一方で、この雇用慣行によって本来政府の役割である失業した際の社会保障のコストを企業が担ってきた。さらに判例法によって事実上失業した際のコストを企業に押し付けることを明文化してしまった。「整理解雇の4要件」である。


1.人員整理の必要性
2.解雇回避努力義務の履行
3.被解雇者選定の合理性
4.手続きの妥当性


 雇用の流動化の本質は、コストに見合うアウトプットができない社員は解雇するという非常にシンプルなことである。しかし上記2つ目の解雇回避努力義務には、従業員を解雇するには従業員解雇以外のコストカットを全て果たした上でしか解雇できないということが明文化されている。これは会社が倒産する寸前まで従業員は解雇できないということだ。


 上記の要件をすべて満たしていないと解雇権の濫用とみなされ、解雇は無効になる。つまり従業員は会社が求めるアウトプットをどんなに満たしていなくても、会社が潰れる寸前でないと解雇ができない。雇用の流動化と政府によるセーフティーネットはセットでなくてはならないので、このように日本企業は終身雇用を保証するという形で本来政府が負担するはずの社会的責任を肩代わりしてきた。その結果、日本では雇用の流動化が促されなかったわけだ。一方で1980年代後半ぐらいまでは長期的視点で雇用することが企業にとってもメリットだったので双方ともに恩恵を享受しており、こうした日本的雇用慣行のお陰で高度経済成長が実現したのだった。


 しかし近年の社会環境の変化により、終身雇用や年功序列等の日本的経営が見直されつつある。成果主義を導入する企業が増え、不透明な先行きに長期的な視野で雇用する余裕がなくなっている企業も多い。終身雇用によって労使双方恩恵を受けていたが、グローバリゼーションが進んだ社会では日本的経営によって守られてきた人たちにあまりにも過酷な環境を強いる事になった。


 終身雇用によって守られていた中高年は再雇用先を探すのに困難を極めている。長期雇用を当てにしていた会社はいつ辞めるかわからない従業員を育てるコストに怯えなければならず、そもそも不確定要素の多い現代では長期雇用をするメリットがなくなった。そういった環境の中でCSRという概念が日本で受け入れられ始めたのはごく自然なことである。


 「企業には従業員の雇用を守るという社会的責任がある」などといった言説は多くの既得権益層 -つまり終身雇用という雇用慣行によって守られてきた人達-の心を掴んだ。日本的経営が行き詰まっている今、CSRという考え方によって「差し替えられているだけ」なのだ。そういう意味で日本の企業は今までも十分に社会的責任を果たしていたといえる。よって巷によくある「日本のCSRは遅れていて欧米のCSRを見習え」といった主張は見当違いといえよう。


 企業の社会的責任というのは非常に耳障りの良い言葉である。しかしその概念が広まった背景には既得権益層の醜い意図が隠されているのかもしれない。


【これからの時代、終身雇用は本当にCSR的か】
 冒頭の話題に戻ろう。若い人達の多くは終身雇用を希望しているが、彼らが終身雇用によって報われることはおそらくないだろう。終身雇用とは企業の収益が右肩上がりの時代にしか実現できないのだ。これからの日本の人口減少社会では、海外展開するか、新たな顧客層を発掘しない限り、終身雇用を維持することが難しい。


 判例法によって雇用が保証されているからといって安心しきっていてもいけない。会社が守ってくれていると思って自分自身の市場価値を高める努力をしていないと、いざ会社が潰れてしまったときに、再就職が難しくなる。若者が終身雇用を希望するということは非常に危険だ。縮小するパイの中で中高年を居座らせるだけでなく、若い人達を更に苦境を強いる可能性さえある。企業は「会社があなたの雇用を守ります」などど甘い言葉を囁くのではなく「会社はいつ潰れるかわかりません。だから雇用も保証できませんし、潰れたときは自己責任です」という姿勢を明確にしたほうがよい。厳しい言葉に聞こえるかもしれないが、これが結果的に従業員のよりよい人生に繋がるのだ。これからの時代のCSRは、終身雇用のように安定した社会を前提に設計するのではなく、不安定・不確定な時代という前提で、その上で従業員個々人がいかに社会の中でうまく立ち振る舞えるかということに焦点を当てなければならないのではないか。


-地獄への道は善意によって舗装されている-


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