CSRの本質とは… -ワークライフバランス(2)-
【時間の価値】
現代では仕事の種類(職種)が多様化しているし、ライフスタイルや家族形態によっても、快適に働ける時間帯が異なるため、すべての社員が「午前9時~午後5時まで」を定時として働くことは、時流に合わなくなってきている。
欧州が「時間」を労働の報酬として注目することは、ワークライフバランス重視の労働政策とリンクしている。高齢化社会によって、若い労働力が足りなくなるのは日本と共通した悩みだが、それを補うために促進しているのが「女性の働き手」を育てることである。
欧州諸国(EU)では1990年代と比較して、女性が職業に就いている割合(就業率)が10%近く上昇しているが、日本もそれに習って、現在の女性就業率(67%)を今後の10年で73%にまで引き上げる目標を掲げている。
欧州の女性就業率が高い要因には、在宅勤務(テレワーク)の普及を推進していることもある。仕事の内容が高度になっていくほど、長時間労働化していくことは避けられないという認識の元、最も削減しやすい時間として「通勤時間の解消」に着目したものだ。
通勤時間がゼロまたは短くなると、交通渋滞の解消や CO2を削減する効果も大きいため、会社以外の場所からでも自由に働けるテレワークの普及は、ワークライフバランスと環境対策の両面から、今後の重要施策として位置付けられている。
国が行なう具体的な支援策としては、テレワークを導入する企業に対してIT機器の購入やシステム開発、社員教育にかかる費用の助成、在宅勤務者への優遇税制や、彼らの立場を守るための法改正などがある。
そして、テレワークに欠かせない通信環境の整備については、既に北欧のほうが米国を上回っている。日本の総務省が昨年発表した「ICT(情報通信技術)インフラの国際比較評価」によると、フィンランド、オランダ、スイスなどが上位に入っているが、これが女性就業率の高い国と一致することに注目しておきたい。
【テレワークからマイクロ起業へ】
日本のICTインフラは世界で最も高いものの、それが労働環境の改善(=テレワークの普及)に活かされていないのは、ITでは先進国なのに、労働条件では後進国であることを、世界に示しているようなものである。
そこで日本政府も、現状の在宅型テレワーカー(約350万人)を、2015年までに700万人にまで増やす計画を掲げている。企業にとっても、仕事と生活の調和を積極的に推進するファミリー・フレンドリーな労働体系を目指すことが、優秀な人材(特に女性)を獲得するためにも重要な課題といえる。
その例として、日本IBMでは育児や介護をしながら働く社員に向けて、在宅勤務で仕事ができる「e-ワーク制度」や、フルタイムの60~80%でも正社員として働ける「短時間勤務制度」を導入している。いまの労働市場に起こっている変化は、良くも悪くも人材の流動化で、「労働者を拘束する」という発想が前提のワークスタイルは、次第に成り立たなくなるだろう。
これまでの企業は、安定した給与や充実した福利厚生を目玉にして、優秀な人材を独占的に拘束してきたが、欧州では在宅勤務で働く社員の中でも、“雇用契約”から“請負や受託契約”へと切り替えて、フリーのテレワーカーへと転身する人が増えている。
その理由としては、さらに自由なワークスタイルを実現したいことの他に、社会保障費の問題がある。欧州は高い公的福祉を受けられる反面、税金や社会保障費の負担も大きいことで知られているが、現役を引退した高齢者が増えることで、若い世代の負担率はさらに高くなる。これは現役労働者が疲弊することを意味するため、公的な保障制度から抜けるためにサラリーマンを辞めて、自営業者として民間の保障制度に加入し直したほうが賢いという風潮が浸透しつつある。
企業にとっても、社員との関係を“雇用”から“委託”に変えることで、これまで国に払っていた社会保障費を、社員に支払う報酬に上乗せしたほうが、彼らのモチベーションを高めることができることから、独立を奨励するようになっている。
ITを活用したスモールビジネスのことを、欧米では「マイクロビジネス」や「マイクロエンタープライズ」と呼ぶようになり、各国の政府もマイクロ起業の奨励や支援の活動を展開しはじめている。というのも、大量生産型の製造業から知的産業へのシフトが起こる中では、個人の才能やセンスを重視したビジネスが今後の重要産業に成長していくと見ているためだ。従来の勤務体系から離脱する動きは、優秀な人材から起こり始めており、彼らを今までのルールで拘束することには無理がある。
魅力的な仕事の報酬とは、必ずしも金銭だけではなく、家族と幸せに過ごせる自由な時間や、自分の感性を高められる特別な環境であったりと、価値観が多様化している。その裏を返せば、人々はお金では買えない心の満足感を探し始めており、それが他人に拘束されない生き方へと向かわせているのかもしれない。
筆者:慶長久和 (㈱日本シニア総合研究所 代表取締役社長
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